夏の体調管理は睡眠から
夏の夜。
「寝つきが悪い」
「夜中に何度も目が覚める」
「朝起きても疲れがとれていない」
そんなことはありませんか?
夏は日が長く活動的になる一方、暑さや湿気によって睡眠の質が落ちやすい季節でもあります。
今回は、現代の睡眠研究と東洋医学、そして江戸時代の『養生訓』から、夏を気持ちよく眠るための工夫を考えてみたいと思います。
夏はなぜ眠りにくい?
人は眠りにつくとき、身体の内部の温度である「深部体温」を下げていきます。
ところが、夏の夜は気温や湿度が高いため、身体の熱を外へ逃がしにくくなります。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、夏に寝室の温度が上昇すると、睡眠時間が短くなったり、睡眠効率が低下したりすることが報告されています。
つまり、
「暑いけれど、エアコンをつけたまま寝るのは身体に悪そう」
と我慢することが、かえって睡眠を妨げてしまうこともあるのです。
睡眠研究の第一人者がすすめる、夏の寝室
睡眠研究の第一人者として知られる、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史教授は、睡眠に適した寝室の目安として、室温23〜25℃、湿度40〜60%程度を挙げています。
「23〜25℃では少し涼しいのでは?」と感じる方もいるかもしれません。
人は眠りにつくとき、身体の内部の温度である「深部体温」を下げていきます。ところが、夏の夜は気温や湿度が高く、身体にこもった熱を外へ逃がしにくくなります。
そのため、暑い夜に無理にエアコンを控えるよりも、寝室を涼しく保ち、身体から熱を逃がしやすい環境をつくることが大切です。
ここで気をつけたいのが、エアコンの設定温度と実際の室温は同じではないということ。
エアコンを23℃に設定するという意味ではなく、枕元などに温湿度計を置き、実際に眠っている場所の室温を確認しながら調整します。
また、「身体が冷えるから」とエアコンを数時間で切れるタイマーにしてしまうと、その後室温が上がり、暑さで目が覚めてしまうこともあります。
真夏はエアコンを途中で切らず、朝まで快適な室温を保つことがすすめられています。
寝具やパジャマ、エアコンの位置、暑さ・寒さの感じ方には個人差があります。
室温だけにとらわれず、掛け寝具なども上手に使いながら、暑くて目が覚めない、でも冷えすぎない、自分が心地よく眠れる環境をつくってみましょう。

そして、温度だけでなく、光や音も睡眠を妨げます。
寝室は、涼しく、暗く、静かに。
夏の夜は、暑さを我慢するよりも、眠りやすい環境を整えることから始めてみましょう。
東洋医学からみる「夏と眠り」
東洋医学では、季節の変化と身体は切り離して考えません。
夏は一年の中でも「陽」の気がもっとも盛んになる季節です。
自然界が活発になるように、人の身体も外へ向かって活動的になります。
また、五臓では夏は「心(しん)」と関係の深い季節と考えられています。
東洋医学でいう「心」は、現代医学の心臓そのものだけを指す言葉ではありません。
精神活動や意識、眠りなどにも関係するものとして捉えます。
そのため、暑さが続き、
- なかなか寝つけない
- 眠りが浅い
- 夢をよく見る
- 夜中に何度も目が覚める
- 気持ちが落ち着かない
といった状態を、身体にこもった熱や「心」の働きとの関係からみていくことがあります。
さらに日本の夏は「暑さ」だけでなく、湿気も大きな特徴です。
冷たい飲み物や食べ物をとりすぎたり、暑さで食欲が落ちたりすると、胃腸も疲れやすくなります。
「夏になると眠れない」という一つの症状だけを見るのではなく、食欲、便通、汗のかき方、冷え、疲れ、身体に熱がこもる感じなどを一緒にみていくのが東洋医学の考え方です。
江戸時代の『養生訓』にも学んでみる
江戸時代の儒学者・本草学者、貝原益軒が著した『養生訓』には、夏の過ごし方についてもさまざまな知恵が記されています。
睡眠について興味深いのが、「朝は早くおき、夕はおそくいね」という言葉です。

また、日の長い時期についても、昼寝を避け、夜あまり早く眠くならないよう、夕食後に少し身体を動かしたり歩いたりすることをすすめています。
もちろん、これは300年以上前の生活の中で書かれたもの。
現代では「睡眠時間を短くしたほうが健康によい」という意味に受け取る必要はありませんが、朝は早く起き、日中は身体を動かし、夜になったら眠るという一日のリズムを大切にしていたことがわかります。
そして、もう一つ興味深いのが「冷たいもの」についてです。
益軒は夏こそ胃腸をいたわることを大切にし、冷たい水をたくさん飲んだり、冷たい麺や生ものをとりすぎたりすることを戒めています。
現代の私たちは、暑い日には冷たい飲み物、アイス、そうめん……と、ついつい冷たいものに手が伸びます。
もちろん、昔と今では生活環境も違いますから、そのまま真似をする必要はありません。
それでも、
寝室は涼しくして、身体の熱を上手に逃がす。
一方で、冷たいものばかりを口にして、胃腸まで冷やしすぎない。
そんなふうに考えてみると、現代の夏の養生にも通じるところがありそうです。
暑さを我慢するのでもなく、何でも冷やせばよいのでもなく。
その日の暑さや、自分の身体に合わせて加減する。
300年以上前の『養生訓』から、今の夏の暮らしにも取り入れられる知恵が見えてきます。
よく眠るためには、朝から準備を
睡眠というと「寝る前に何をするか」に目が向きがちですが、実は朝から夜の眠りの準備は始まっています。
朝起きたらカーテンを開けて光を浴び、朝食をとる。
日中は適度に身体を動かし、夜は強い光を避けて少しずつ身体を休息モードへ。
こうした一日のリズムが、夜の自然な眠気につながっていきます。
厚生労働省の睡眠ガイドでも、規則正しい生活や朝食、日中の活動など、生活全体を整えることが良質な睡眠につながるとされています。
睡眠の質を支える食事
「これを食べれば眠れる」という食品があるわけではありません。
大切なのは、特定の食品に頼るより、一日の食事のリズムと栄養のバランスを整えることです。
特に夏は暑さで食欲が落ち、
「そうめんだけ」
「パンだけ」
という食事になりがちです。
麺類を食べるなら、卵や豆腐、納豆、魚、鶏肉などのたんぱく質と、夏野菜などを少し加えてみましょう。
たんぱく質に含まれる必須アミノ酸の一つ「トリプトファン」は、体内でセロトニンなどを経て、睡眠・覚醒リズムに関わるメラトニンの材料になります。
トリプトファンは、
大豆製品、卵、乳製品、魚、肉、ナッツ類
など、普段の食卓にある食品からとることができます。
何か一つを大量に食べるのではなく、朝食を抜かず、三食の中でいろいろな食品をとることを心がけてみてください。
また、夜遅い時間の重い食事や飲酒は、睡眠の質を妨げることがあります。
暑い夏こそ、胃腸にも少し休む時間をつくってあげましょう。
「何時間眠ったか」だけではなく
「昨日は6時間しか寝られなかった」
「8時間寝なくては」
と、睡眠時間ばかりが気になってしまうことがあります。
もちろん睡眠時間は大切ですが、それと同じように、
朝起きたときに、ちゃんと休めたと感じられるか
も大切です。
厚生労働省の睡眠ガイドでも、成人ではおおよそ6時間以上の睡眠時間を確保することを目安としながら、個人差を踏まえ、睡眠休養感を高めることがすすめられています。
暑い夏。
「ちゃんと寝なくちゃ」とがんばるより、
寝室を涼しくして、
朝の光を浴びて、
きちんと食べて、
一日の終わりには身体の力を抜く。
そんな小さな積み重ねから、眠りの環境を整えてみてはいかがでしょうか。
🌿 ゆるみからのひとこと

暑い夜は、がまんしない。
涼しくして、ゆっくり眠ろう。

